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インターネット投稿での名誉棄損行行為に対する損害賠償請求と削除請求
    (損害賠償請求は認められないが、削除請求は認められる場合)

弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫


(例 題)
 弁護士Aは、人材派遣・研修等を業とするX会社から研修費用90万円を返還せよとの裁判請求を受けた元従業員Bからの受任代理人として訴訟対応をしている中で、インターネット上に「X会社は、中途で退職した従業員に対して、その従業員の研修費用として、外部向けに提供しており、提供している費用の3倍もの金額を請求するなど、雇用した労働者を搾取している。このようなやり方は、戦前には売春業者や炭鉱等でのタコ部屋労働として濫用されていた。」と書き込んだ。
 実際の研修費用は、外部提供した研修費用は2ヶ月研修で24万円程度、従業員研修費用は3ヶ月で90万円程度を支払う仕組みになっていたが、受講時間数が異なっており、時間単価に引き直すと、外部提供用研修単価は1時間1,155円程度、従業員研修単価は1時間1,800円程度で、1.5倍の差にすぎなかったことから、X会社は、弁護士Aに対して、虚偽の事実に基づく名誉棄損(民法第723条の不法行為)として、顧客の喪失分の損害4億円の損害賠償請求と投稿記事の削除請求の裁判を提起してきた。
弁護士Aの責任はどうなるか。
*民法第723条「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。」

(解 説)
1.この弁護士Aのネット記事の投稿の初歩的問題点
 まず、法的問題を検討する以前に、弁護士が自分の受任した事件で知った内容をなぜインターネットやSNSに書き込もうとする弁護士がいるのか、私は理解できません。刑事弁護人としてテレビ等で記者に囲まれて面会してきた被告人の内情をしゃべっている弁護士を見ますが、この点に関しても私は疑問を持っております。
 弁護士法と日弁連の定める職務規程に次のような定めがしてあります。
 ・弁護士法第23条本文
 「弁護士又は弁護士であった者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。」
 ・弁護士職務基本規程第23条
 「弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない。」
 この守秘義務は、依頼をした当事者に対する守秘義務ですが、事件の相手方の情報についても第三者や関係の無い人々に知らせる必要もありませんし、依頼をした当事者の意向に反する場合もあるはずですから、弁護士としては、受任した事件や裁判で知り得た個人情報は口外すべきではないでしょうし、裁判手続き以外の場面で、相手方を非難するような手法を使うことに何の意味があるのか、全く理解に苦しみます。
 その意味で、私は弁護士Aのインターネットへの書き込み自体が、不適切にも程がある行為であると考えます。

2.弁護士Aのネット記事の投稿の法的問題点
(1)名誉棄損とは、公然と事実等を指摘して人の名誉を傷つける(=社会的評価を低下させる行為)です。刑事罰(刑法第230条)もありますが、民事上の不法行為責任(民法第723条)も問われることになります。民事責任についても、刑事責任に関して刑法第230条の第2号第1項の違法性阻却事由が定められている場合と同様に、名誉棄損行の事実の摘示については、以下の基準を満たす場合には、不法行為となりません。
 ① 事実の公共性
 ② 目的の公益性
 ③ 摘示された事実が重要な部分において真実であること(真実性)または摘示された事実の重要な部分を真実と信ずることについて相当の理由があること(誤信相当性)
(2)東京地裁令和5年12月13日判決(判例時報2609号42頁)
  この事案での裁判所での判断では、「3倍もの請求をしている」「雇用した労働者を搾取している。」「このようなやり方は、戦前には売春業者や炭鉱等でのタコ部屋労働である」との事実適示については、真実性の立証はできていない(記事内容は虚偽になる)が、弁護士Aは、研修費用に関して相応の調査をしており真実と信ずることについて相当の理由があるとして、誤信相当性を認めました。
 ① 真実相当性がある場合の弁護士Aの責任
  名誉棄損の内容となった事実が「真実」だった場合には、虚偽の事実ではないことになりますので、損害賠償責任も名誉を回復するのに適当な処分としての記事の削除責任も生じないことになります。
 ② 真実相当性はないが、誤信相当性がある場合の弁護士Aの責任
  名誉棄損の内容となった事実が「真実」でなかった場合には、虚偽の事実が記事として残っていることになります。損害賠償請求に関しては、誤信相当性が認められたことからやむを得ない行為として責任を問うてはいけないという基準になっていますので、損害賠償責任は生じないことになります(裁判所も損害賠償請求は棄却していいます)が、インターネット上の投稿記事そのものは虚偽の記事が残ったままでは、X会社の名誉を回復しないまま放置することになりますので、名誉を回復するのに適当な処分としての記事の削除責任は生じると解釈すべきことになります。
 この点、裁判所の判断は、「(3倍の金額等の)事実の適示部分は、事実とまでは認められないからその掲載行為が違法であるという評価は変わらない(真実であると信じたことにつき相当な理由があり過失を欠くという理由により不法行為責任を負わないにすぎない)から、X会社はその人格権に基づき削除を求めることができると言える(から)削除をすることを命ずる。」としています。

3.この裁判例を見て、私自身、フェイスブック等のSNSを使っていますが、そこに記載又は投稿する内容については、弁護士として登録もしていません。また、弁護士としての業務(弁護士会務は別)の内容については、一切、書き込まないように注意していますし、書き込む必要性も感じません。地方公共団体も自治体の広報活動としてフェイスブック等のSNSを積極的に活用している時代になっていますが、ここでの自己情報や不確かな情報の発信については、第三者が常に見ているという状況であることを認識して、見る側読む側の受け取り方等に留意しながら発信する必要があると思います。

                          

以  上

公務員の欠格事由とその処遇について

弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫


(相 談)
(1)地方公務員試験に合格し、採用前に自転車衝突事故を発生させ(被害者死亡:重過失致死罪)、少年審判で保護観察処分となった少年(未成年者)を4月1日より職員として採用してよいでしょうか。今後、どのような対応を考えておくべきでしょうか?
(2)地方公務員試験に合格した後、採用前に自動車運転致死事故(被害者死亡)を発生させ、拘禁刑6月執行猶予2年の成人者(22歳)を採用したことが、採用した1年後に判明した場合、採用はどうなるのでしょうか。勤務した事実に対する給与支払い等はどうなるのでしょうか?

(回 答)
1.地方公務員の欠格事由
 地方公務員については、基本的に公務員試験(選考)を経て採用されることとなりますが、地方公務員法により、地方公務員になることが出来ない場合が定められています。これを欠格条項といいます。
 地方公務員法第16条に次のような定めがあります。
「次の各号のいずれかに該当する者は、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない。
 一 拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
 二 当該地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者
 三 人事委員会又は公平委員会の委員の職にあって、第六十条から第六十三条までに規定する罪を犯し、刑に処せられた者
 四 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者」
 特に、第16条第1号「拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」が問題になります。刑罰には、死刑、拘禁刑(旧懲役、旧禁錮)、罰金、拘留、科料、没収がありますが、死刑や拘禁刑を受けた場合には公務員にはなされないということになりますが、拘禁刑は、実際には「過失運転致傷罪」、「過失運転致死罪」等の場合に適用されることが多いため、重篤な交通事故を起こした場合等であれば、公務員に採用された後に科されることも多く発生しますので、その場合の公務員としての採用や採用後の身分が問題になるわけです。
 例えば、公務員として在職している期間中にこれらの刑罰の実刑判決を受けた場合、その判決の日をもって、当然に失職(辞職ではない)することとなります。(地方公務員法第28条第4項(降任、免職、休職等)「職員は、第16条各号(第二号を除く。)のいずれかに該当するに至つたときは、条例に特別の定めがある場合を除くほか、その職を失う。」)

2.相談例(1)について
 保護観察処分とは、罪を犯した人(成人・少年を含む)や非行少年に科される処分の一種で、保護観察所の指導の下、社会の中で更生を図る処分のことをいいます。刑務所や少年院のような施設に収容されることなく、通常の社会生活を送りながら更生を目指すことから、「社会内処遇」と位置づけられており、「刑罰」や「刑の執行」ではありません。
 本件相談の未成年者の保護観察は、保護観察処分少年として、少年審判において非行を矯正する必要があると判断されたものの少年院送致までは必要なく、自宅監護の下での「保護処分」という処分を科された場合になります(更生保護法第48条1号、第66条等)。保護処分である少年院送致や保護観察は、上述したように、少年の更生を目的として家庭裁判所が課す特別な処分であり、刑事裁判所が科す懲役、罰金などの刑罰とは異なるものですから、公務員の欠格事由である「拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」には全く該当しないので、公務員として採用することに法的な問題はありません。今後の対応として検討すべき事項も特にありません。保護観察処分の原因となった犯行も自転車事故ということですから、いわゆる少年特有の悪性・非行的問題点もないと考えられますので、一般の公務員として見守ればいいと思われます。

3.相談例(2)について
 地方公務員法第16条第1号の「一 拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」の「その執行を受けることがなくなるまでの者」というのは刑の執行猶予中の者を含む意味になります。
 刑の執行猶予とは、有罪判決が下された事件で、犯罪行為に関する具体的な事情により、必ずしも現実的な刑の執行を必要としないと判断された場合に、1年以上5年以下の期間その執行を猶予し、猶予期間経過後に当該事件についての刑罰権を消滅させる制度です(刑法第25条)。執行猶予期間が満了すると刑の言い渡しの効力や資格制限等が、将来に渡って消滅しますが、執行猶予期間中は「その執行を受ける」可能性は残っており、「その執行を受けることがなくなるまでの者」に該当しますので、欠格事由になります。
 公務員採用後に有罪実刑等の欠格事由が発生した場合には、刑の確定時に「失職」することになりますが(地方公務員法第28条第4項)、地方公務員の欠格事由がある人を採用した場合には、その採用行為(行政行為)は、採用時に遡って無効となります。無効と判明した時点で、採用取り消し行為をするまでもなく、そもそも公務員としての身分がなかったという取り扱いをすることになります。
 その場合、公務員として勤務した1年間の事後処理をどのように行うかが問題となります。「事実上の公務員の理論」というのがあります。無資格者が公務員に選任されて外観上公務員として行った行為は、理論上は無権限者の行為ですが、行政秩序の安定と継続性を守るために、行政法理論としては、これを有効なものとして扱うという見解が多数の見解です。この考え方を基本に、本人の勤務等に対する清算は次のように考えられています。
 ① 給与は返還させる必要はない。
   無資格の公務員給与の需給は不当利得ですが労働という対価行為を提供しているので「利得」がないと評価できます。
 ② 公務員共済組合に対する本人の掛金中、長期の分については、組合から本人に返還します。
   短期の分については、医療給付があったものとして相殺し、返還しません。
 ③ 原則、退職手当は支給しません。
 ④ 退職に関する辞令は「採用自体が無効であるので登庁の要なし」という通知書で足りるとされています。

4.最後に、
 公務員の有罪判決に関する欠格事由の定めについて、選挙権などの欠格規定では、拘禁刑以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者であっても執行猶予者は除外されている点と比べて、公平ではなく不合理ではないかという点が問題になった最高裁判例がありますが、「地方公務員においては、その職の信用を傷つけたり、地方公務員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない義務がある(地方公務員法第33条)など、その地位の特殊性や職務の公共性があることに加え、わが国における刑事訴追制度や刑事裁判制度の実情のもとにおける拘禁刑以上の刑に処せられたことに対する社会的感覚などに照らせば、地公法第28条第4項、第16条第2号の前記目的には合理性があり、地方公務員を法律上このような制度が設けられていない私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえない。」としています(最高裁平成1年1月17日判決)。
                          

以  上

「別れさせ屋」業者との契約と法律問題

弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫


(相談)
 寒い冬の時期に男女の淡い想いで温まる人たちもいれば、他方では、春を待たずに男女の別れの清算をする人たちもいます。
 ということで、「夫と不倫相手を破局させるのに別れさせ屋に頼みたい」や「妻の不倫に悩んでいるが別れさせ屋に頼んだら違法なのか」、「好きな女性が出会い系サイトで知り合った悪い男と交際しているが、彼女のために別れさせたいので,、別れさせ屋に頼みたい。」という相談から垣間見える法律問題を、節分の鬼の出るこの時期に(?)、考えてみましょう。

(検討)
1.「別れさせ屋」とは,
 「別れさせ屋」とは、配偶者や交際相手の不倫に悩んでいるけれど、ご自身では解決ができない人等の依頼を受けて、その不倫相手に別の異性を近づけるなどして破局させようとする業者をいいます。現在は、調査業者や一部の探偵業者などが,、業務の一環として別れさせ屋を行っているケースが多いようで、インターネット上でも、そのような宣伝や広告がされています。料金は、弁護士費用をはるかに上回る高額料金になっているのを見かけます。

2.「別れさせ」行為あるいはそのような業務自体は、そもそも許されるのでしょうか。
 離婚協議や男女の別れが双方の協議や話し合いで行われていくことは認められており、そのような協議や話し合いに代わりに参加したり、代理として第三者が関わること自体は、何ら法律で規制されていませんが、双方の話し合いによる解決の代理を有料で「職業」「業」として行うことは、弁護士法違反で処罰される可能性があります。
 「別れさせ屋」業者は、その点、離婚手続きの代理(法律行為及びそれを前提とした関連行為の代理)をするのではなく、別れるように気持ちを持たせるという「事実行為」(他に愛人がいる様に仕向ける。相手に虚偽の情報を提供する等)を調査又は代行するだけなので、弁護士法違反ではないという側面を持っていますので、「別れさせ屋」業者を規制する法律はありません。

3.「別れさせ屋」業者と契約することは、問題ないのでしょうか。
 「別れさせ屋」業者を直接規制する法律はないのですが、「契約」する場合には、日本の法律では、「公序良俗」、つまり、社会(公)の秩序(序)と日常生活のしきたり(良俗)などに反する法律行為は無効と規定されています(民法第90条)。この点で、交際中の人を別れさせるような行為を依頼する契約は、公序良俗違反で無効になるのではないかと判断される危険性はあります。このような法律的な観点から、探偵業の上部団体である日本調査業協会の自主規制では「別れさせ屋に準じた事案については絶対にしない」という旨を決めているようです。
 「別れさせ屋」業者との契約が公序良俗違反となると契約は無効となりますので、依頼者は約束した高額な料金を払わなくてもよくなり、「別れさせ屋」業者は働いた分の報酬も料金ももらえなくなるのですが、依頼者が一旦払った料金の取り戻しをしたいという場合になると、依頼者も「別れさせ屋」業者が違法な手段で別れさせることをあえて利用したという側面がある場合には、民法第708条の不法原因給付となって依頼者は料金の取り戻しができない場合も出てきますので、経済的被害が残る結果になります。

(1)「別れさせ屋」契約が公序良俗違反となるケース
  ① 別れさせる方法や手段が、犯罪になる場合―例えば、相手方に暴行や脅迫をした場合や住居侵入や郵便物の開封、虚偽の文書を偽造して送りつけたりした場合
  ② 別れさせる方法や手段が、相手方の権利(貞操を守る権利等)を侵害する性的関係を持たせる場合やその他人倫に反する行為がなされた場合

(2)「別れさせ屋」契約が公序良俗違反とならないとされたケース
 大阪地裁平成30年8月29日判決―判例時報2487-83の事案を紹介しましょう。
 これは、男性Y男が元交際していた女性Aが他の男性Bを付き合い始めたところ、寄りを戻そうとして、AとBを別れさせようとして「別れさせ屋」Xと「別れさせ工作委託契約(着手金80万円、報酬金40万円)」をしたところ、Xが、工作員女性Cを使って、男性Bと懇意になって別れさせる方法や男性Bと浮気をした旨を女性Aに告げることで、女性Aに男性Bと付き合いたくないと思わせる方法の始まりとして、工作員女性Cは男性Bと一緒に食事をして、女性Aと会って「私たちはBに二股をかけられていた。あんな男はどちらからも振ってやりましょう。」と告げた結果、その後1週間後に女性Aは男性Bとの交際を終了させたという事案において、男性Yは、「別れさせ屋」X及び工作員女性Cが女性Aに対して、男性Yが工作依頼したことを暴露したので、報酬は支払わない、着手金も返せという紛争になり、裁判となったものです。
 裁判所は、「本件契約等の目的のために達成手段として想定されていた方法は、人倫に反する関係者らの人格、尊厳を傷つける方法や関係者の意思に反してでも接触を図るような方法であったとは認められず、また実際に実行された方法も、工作員女性Cが対象男性Bと食事を一緒にするなどというものであったというのである。これらの事情に照らせば、本件契約等においては、関係者らの自由な意思表示の範囲内で行うことが想定されていたと言えるのであって、本件契約等が公序良俗に反するとまでは言えない。」としています。
 本件の関係者男性Bも女性Aも工作員女性Cも未婚者であったことから、工作方法も自由恋愛の部類の工作にすぎないこと、犯罪行為に該当する面は全く伺えないことから、「別れさせ屋」契約が有効とされたものです。
 この点からすれば、男性Aと女性Bが夫婦であったり、女性Bと男性Yが夫婦であったりした場合には、単に自由恋愛の範囲を超えて夫婦の婚姻に関する権利侵害の側面が出てくる可能性がありますので、本件契約等が公序良俗に反するとされる可能性も出てきます。

4.まとめ
 自分のトラブルをインターネット上の宣伝文句につられて見知らぬ人に頼むことは、法律上は特に問題がなくても、費用を追徴されることや、犯罪に巻き込まれるなどの危険を伴うものです。生活上のトラブル解決が必要な時には、資格を有する専門家や弁護士にまずは相談することが賢明です。「闇バイト」のインターネット情報のように、世の中には節分で追い出された鬼が蠢いている可能性が多くあります。インターネット情報を安易に利用することだけは避けたほうがよろしいかと思います。


                          

以  上

お正月と法律シリーズ⑪ 餅つきと鏡餅

弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫


 皆さん、年末の慌ただしさを乗り越えて、良き新年をゆっくり迎えられたことと思います。
 お正月の年賀代わりに、「お正月と法律シリーズ『餅つきと鏡餅』」をお読みいただければ幸甚なことでございます。
1,暮れの餅つき
 餅は、昔から神様に捧げる神聖な食べものとして、祝い事や祭りには欠かせないものでした。「鏡餅」も正月には神棚や床の間に飾られ、お正月の習わしとして欠かせないものとなっています。
 その鏡餅は、年の暮れの「餅つき」で近所の人々が協力して作られる習わしがあり、暮れの「餅つき」は日本の風物詩のひとつでした。
 暮れの「餅つき」は、12月28日か12月30日に行うことが多いようですが、12月29日は「苦持ち」といい、九が苦に通ずることから「9(苦)がつく日の餅」として縁起が悪いとされています。しかし、これとは全く逆に、29は「福」とも読めるので、福(29[ふく])をもたらすといって、この日に餅つきをするお寺もあるようです。また、12月31日は、「一夜前についた餅」「一夜もち」といって、餅がしっかり固まらず二段重ねの鏡餅が沈んでしまい、これも縁起が悪いとされていますので、結局は、12月28日か12月30日に暮れの「餅つき」が行われるところが多いようです。

2,近所持ち寄りの「暮れの餅つき」
(1)法律的な問題
 日本の暮れの風物詩の「餅つき」は、近所の人たちが集まって、お互いにモチ米や小豆餡や黄な粉などの材料を持ち寄って家族総出で行っていることが多かったようです。お互いが持ち寄ったモチ米を蒸かして同じ臼で突いて餅を作りあげていきます。
 実は、ここにも法律的な問題が生じています。
 例えば、仮に、Aさんがモチ米5kg、Bさんがモチ米2kg、Cさんが小豆餡や黄な粉を提供して、それぞれの「鏡餅」とその他の食用餡餅や黄な粉餅を作ったとしましょう。このときのそれらの「餅」の所有権はそもそも誰に帰属することになるのでしょうか?―Aさんのモチ米分とBさんのモチ米分が混ざって一個の餅となった場合、その餅は誰の餅と言えるのかという問題です。
(2)民法の規定
 民法の所有権取得に関する規定の中に次のような条文があります。
 第243条(動産の付合―単独所有)
 「所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。」
 第244条(動産の付合―共有)
 「付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。」
 第245条(混和)
 「前二条の規定は、所有者を異にする物が混和して識別することができなくなった場合について準用する。」
 第246条(加工)
 「1 他人の動産に工作を加えた者(以下この条において「加工者」という。)があるときは、その加工物の所有権は、材料の所有者に帰属する。ただし、工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超えるときは、加工者がその加工物の所有権を取得する。
  2 前項に規定する場合において、加工者が材料の一部を供したときは、その価格に、工作によって生じた価格を加えたものが他人の材料の価格を超えるときに限り、加工者がその加工物の所有権を取得する。」
 第247条(付合、混和又は加工の効果)
 「1 第二百四十二条から前条までの規定により物の所有権が消滅したときは、その物について存する他の権利も、消滅する。
  2 前項に規定する場合において、物の所有者が、合成物、混和物又は加工物(以下この項において「合成物等」という。)の単独所有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その合成物等について存し、物の所有者が合成物等の共有者となったときは、その物について存する他の権利は以後その持分について存する。」
(3)民法の条文に従って、「暮れの餅つき」を分析してみましょう。
 ①Aさんがモチ米5kg、Bさんがモチ米2kg、Cさんが小豆餡や黄な粉を提供したモチ米や小豆餡などは、民法第243条の「所有者を異にする数個の動産」に該当し、みんなで協力して餅にしたので、みんなは、民法第246条の「他人の動産に工作を加えた者」に該当します。
 ②付合と混和の違い
  ア モチ米が餅になった場合は「付合」というのか、「混和」というのかで、民法の条文は異なりますので、まずはその違いを見てみます。
    「付合」というのは2つの物が分離できない状態となることをいいます。「混和」というのは、複数の物が混ざり合って識別できなくなったことをいいます。液体や穀物が混ざるのが典型例です。
  イ 餅つきは、米の状態から餅の状態に変わっていて、くっついた状態になっていますので、「付合」又は「加工により新たな物」として判断することになります。小豆餡餅や黄な粉餅は、それにさらに小豆餡や黄な粉を「くっつけた」ものなので、更に「付合」したものということになります。
  ウ 付合と混和は、単に、くっついたか混ざったかの違いなので、法的関係は同じ効果が生じることとされています(混和の規定第245条が付合の規定、第243条、第244条を準用している)。
  ちなみに、「加工」 とは、元の動産に工作を加えて別の新たな動産を作り出すことを言います。
 ③「主たる動産」かどうか。
 日本の暮れの風物詩の「餅つき」は、近所の人たちが集まって、お互いにモチ米や小豆餡や黄な粉などの材料を持ち寄って鏡餅などを作っていますので、民法の規定する「付合」や「混合」が生じると、新しい動産(餅)の所有権は、「主たる動産」の所有者に帰属することになります(民法第244条、第245条)。
 主たる物(主物)か、従たるもの(従物)かは、従物は主物の常用に供されているものとされており、建物に対する襖や障子、畳などが例示されています。
 まず、通常の白餅の所有者は、Aが出したモチ米とBが出したモチ米との間に主従の関係があるのかを検討してみると、AとBの提供量は違いますが、モチ米としては同様のモチ米を出していますし、どちらかが他方の常用に供されているという関係でもないので、民法第244条の「付合した動産について主従の区別をすることができないとき」として、通常の白餅の所有者は、付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する状態でのA及びBになると考えます。
 次に、A及びBの共有物である餅に、Cの所有する小豆餡や黄な粉が「付合」している点については、小豆餡や黄な粉は「餅(主物)の常用に供されているもの」としての性質が認められるので、Cの所有権は消失するものと考えます(民法第247条第1項)。
 ④「工作によって生じた価格が材料の価格を著しく超える」かどうか。
 加工によって、元のモチ米等が餅になったことから、餅の価値が、元のモチ米等の値段より「著しく高価」な物になった場合には、加工した人たちの所有物になり、「著しく高価」でない場合には、元の材料であるもち米等の所有者であるA及びBの所有物になるということで結果が異なります。「材料の価格を著しく超えるかどうか」は、社会通念上の判断にならざるを得ませんが、餅の値段としては、数十倍以上の価値が見出せる場合でもなく、みんなでもらい受けて正月の鏡餅として飾ったり食したりする物にすぎないので、「材料の価格を著しく超える物」とは言えず、餅の所有権としてはA及びBの所有になるものと思われます。
(4)民法の規定と関係者の意思決定の優先
 私的関係における権利関係(私法関係)は、利害関係を有する当事者の意思に従って権利関係を決めるという、意思自治の原則があります。そこで、暮れの餅つきの際に、参加者が慣例的に又は一定の取り決め(合意)をして、つき上げた餅の権利関係を決めることも自由にできます。例えば、「お互いに提供できるもち米や器具を持ち寄って餅つきをしよう。できた餅はみんなで平等に分けよう。」という全員の合意があれば、できあがった餅は、参加者全員の共有物となり、各人が所有者として平等に受け取ることができることになります。
 民法の付合等の規定は、当事者間で合意ができていない場合や争いが生じた場合の解決基準にすぎないものということになります。

3,鏡餅を飾る意味について
(1)歳神様(「年神様」と表記する場合もあります。)
 暮れの餅つきでついた「鏡餅」は、正月飾りを身にまとわせて神棚や床の間に飾ります。そこは、新年の神様である歳神様の依り代(よりしろ)、つまり家にやってきた歳神様の居場所だからです。
 歳神様は、新しい年の幸福や恵みとともに、私たちにその年の「魂」を分けてくださると考えられてきました。「魂」とは、例えると私たちの生きる力、気力のようなもので、その「魂」は歳神様が依りついた餅(鏡餅)に宿るとされました。この餅を「御年魂(御年玉:おとしだま)」として分け、「雑煮」にして食べることで、その年の「魂」をいただいたのです。これが、子どもたちが楽しみにしているお年玉の由来です。
 今は誕生日がくるとひとつ年を取りますが、かつては正月に歳神様から「年魂」をもらってみんなひとつ年をとったのです。これが数え年という年齢の数え方で、歳神様から「年魂」をいただくことが本来のお年玉です。
(2)なぜ「鏡餅」というのか?
 鏡餅の丸い形は、昔の鏡「銅鏡」に見立てて作られたことに由来します。
 伊勢神宮をはじめ、鏡をご神体としているところもたくさんあります。鏡餅は歳神様の依り代ですから、ご神体としての鏡を餅であらわし、ネーミングも鏡餅というわけです。餅を大小2つ重ねるのは、月と太陽、陰と陽を表しているといわれています。
 鏡餅は、神様に供え、神様からもらい受けて開き、そして私たちが食べてこそ意味を成すのですから、皆さん、お正月には、お餅をたくさん食べましょう!!

 (お正月に長文を読んでいただき、ありがとうございました。)


                          

以  上

カスタマーハラスメントと法的問題(2)
(刑事問題、民事賠償問題、労働問題)

弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫


前回に引き続き、今回は、カスタマーハラスメントについて、どのような法的責任が生じるかについてご説明します。
1~4は前回に説明済み
5.カスタマーハラスメントと刑事問題(★カスハラは、どんな刑事罰を受けるの?)
 カスタマーハラスメントは、次の態様で行われた場合には、刑法上の犯罪になる可能性が高くなりますので、警察への相談対応もできることになります。
 ◆ 店員が「お引き取りください」と要求しても帰らなければ
  → 「不退去罪(刑法第130 条)」
 ◆ 店内で、店員の制止に従わず、大声を出し続けると
  → 「威力業務妨害罪(刑法第234 条)」
 ◆ インターネット上に評判を貶めるような嘘の書き込みをしたり、無言電話をかけ続けるなどして営業を妨害すると
  → 「偽計業務妨害罪(刑法第233 条)」
 ◆ インターネット上などで「店員の〇〇という人の態度が最悪!皆も利用しないように!」と言いふらすと(それが事実だとしても)
  → 「名誉毀損罪(刑法第230 条)」
 ◆ 「俺を怒らせたら何するか分からないぞ!」「お前ん家に、後で若い衆をよこすからな!」などと言って脅すと
  → 「脅迫罪(刑法第222 条)」
 ◆ 店員に無理矢理土下座させたり、謝罪文を書かせたりした場合は、
  → 「強要罪(刑法第223 条)」
 ◆ 「ネットに書き込むぞ!黙っててほしいならそれなりの誠意を見せろ!」などと過剰な見返りや金品を要求すると
  → 「恐喝罪(刑法第249 条)」

6.カスタマーハラスメントに対する会社の対応―労働問題(★会社には、従業員を守るためにどういう責任があるの?)
(1)反社会的勢力による企業への不当要求行為への対策については、すでに弁護士会の民事介入暴力対策委員会の弁護士(いわゆる「ミンボー弁護士」)において、「不当要求対応マニュアル」が活用されてきています。(各都道府県暴追センター「暴力団等反社会的勢力からの不当要求に対する対応マニュアル(基本的対応要領16か条)」「不当要求対応ガイド」等)。その要点だけ示します。
○ 反社会的勢力による不当要求がなされた場合には、当該情報を、速やかに反社会的勢力対応部署へ報告・相談し、さらに、速やかに当該部署から担当取締役等に報告する。
○ 反社会的勢力から不当要求がなされた場合には、積極的に、外部専門機関に相談するとともに、その対応に当たっては、暴力追放運動推進センター等が示している不当要求対応要領等に従って対応する。要求が正当なものであるときは、法律に照らして相当な範囲で責任を負う。
○ 反社会的勢力による不当要求がなされた場合には、担当者や担当部署だけに任せずに、不当要求防止責任者を関与させ、代表取締役等の経営トップ以下、組織全体として対応する。その際には、あらゆる民事上の法的対抗手段を講ずるとともに、刑事事件化を躊躇しない。特に、刑事事件化については、被害が生じた場合に、泣き寝入りすることなく、不当要求に屈しない姿勢を反社会的勢力に対して鮮明にし、更なる不当要求による被害を防止する意味からも、積極的に被害届を提出する。
○ 反社会的勢力による不当要求が、事業活動上の不祥事や従業員の不祥事を理由とする場合には、反社会的勢力対応部署の要請を受けて、不祥事案を担当する部署が速やかに事実関係を調査する。調査の結果、反社会的勢力の指摘が虚偽であると判明した場合には、その旨を理由として不当要求を拒絶する。また、真実であると判明した場合でも、不当要求自体は拒絶し、不祥事案の問題については、別途、当該事実関係の適切な開示や再発防止策の徹底等により対応する。
○ 反社会的勢力への資金提供は、反社会的勢力に資金を提供したという弱みにつけこまれた不当要求につながり、被害の更なる拡大を招くとともに、暴力団の犯罪行為等を助長し、暴力団の存続や勢力拡大を下支えするものであるため、絶対に行わない。

(2)カスタマーハラスメントへの会社の対応策
 カスタマーハラスメントは、一般人としての顧客への対応なのですが、要求内容や要求態度が「不当要求」である点では、反社会的勢力からの「不当要求」への対応策と同様の対応策が採られるべきです。一般人だからといって許す必要はありません。
 問題は、職場の上司及び企業管理職等の「カスタマーハラスメントへの対応意識」の無さです。反社会的勢力による場合には、現場の一従業員に対応させることは困難であるため組織的な対応を取ることは意識できても、一般人によるカスタマーハラスメントは、単なるクレーム処理として現場の一従業員に対応させておけばよいという意識になってしまっています。
 しかしながら、2020年に労働施策総合推進法が改正・施行された際の「パワハラ指針」において、カスタマーハラスメントについても記載され、労災認定基準(精神障害認定基準)にカスタマーハラスメント記載が追記され、2023年12月には旅館業法改正によりカスタマーハラスメントを行う客の宿泊を拒否できる定めもされました。更に、2025年6月11日公布(公布の日から起算して1年6月以内に施行予定)された改正労働施策総合推進法第33条及び第44条に、カスタマーハラスメントを防止するため、事業主に雇用管理上必要な措置を義務付け、国が指針を示すとともに、カスタマーハラスメントに起因する問題に関する国、事業主、労働者及び顧客等の責務を明確化しました。
 従って、カスタマーハラスメントに対しては、企業者(使用者)が次のような法的義務を負っていることになります。
<1> 行政法上の義務
労働施策総合推進法上の使用者義務としてパワハラ防止・措置対応義務と同様に、カスタマーハラスメント防止・措置対応義務を負います。
<2> 民事上の義務
 民事上の義務としては、使用者は労働者に対して労働契約法第5条による安全配慮義務を負っていますが、その義務の中にカスタマーハラスメント防止・措置対応義務が含まれることになり、カスタマーハラスメントを行う顧客に対して、組織的対応をせず、現場の一従業員に任せるだけで放置していた場合に当該従業員が精神的疾患になったり、職場環境の不備で退職したりした場合には、賠償責任等を負うことになります。
 以上のとおり、カスタマーハラスメントは、単なるクレームではなく、悪質なクレーマー対策と同じ方策を取ることが求められます。上述した「不当要求対応マニュアル」に従った対応策や管理職等への対策の周知を行うことを講じておく必要があります。
 最後になりますが、私たちは、無意識に、取引事業者又は顧客としての不満を相手に強くぶつけてしまうことがあるのかも知れません。常に、自分の言葉や行動を相手がどう感じて受け止めているかを、自ら想像して気付くように心がける必要があるように思います。

                          

以  上

カスタマーハラスメントと法的問題(1)
(刑事問題、民事賠償問題、労働問題)

弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫


1.「カスタマーハラスメント」(Customer harassment)とは、Customer=顧客、 harassment=いじめや嫌がらせ、と訳されるもので、顧客や消費者からの度を超えた又は悪質なクレーム・要求のことです。略称で「カスハラ」と呼ばれることもあります。
 このカスタマーハラスメントは、顧客においては、顧客の権利というよりも、逆に、顧客が刑事責任や民事賠償責任を負わされたり、職場環境を維持すべき会社が労働問題としての責任を問われたりするということへ繋がっていく問題となっています。

2.具体例(★どのようなことがカスハラになるの?)
カスタマーハラスメントには複数のパターンがあります。次のいずれかの特徴に当てはまった場合は、カスタマーハラスメントと判断してよいという例示が、多くのマニュアルで示されています。
類型  発言や行為の例 
 優位的地位の乱用(顧客や消費者として不合理な優遇を求める言動等) ・「俺は客だ」「お客様は神様だぞ!」「あなたの対応次第では出るところに出る」などの発言

・ネットに書き込むなどネット炎上をちらつかせて、値引きやサービスを要求する

・企業や店舗側の人間が質問した際に「客の話が信用できないのか」「俺がお金を払っているのだから、質問する前に俺のためにやって当然だろ!」などの言いがかりで質問を遮断する
 不当・過剰・法外な要求・社会通念上相当の範囲を超える対応の強要・コンプライアンス違反の強要等 ・安価な購入商品への高額な修理要求等、対価的に相当な範囲を超えた要求

・特別の利益や便宜の供与を求める要求

・法令違反の内容への対応要求

・暴行・傷害・強要・恐喝・脅迫・不退去・器物破損・威力・偽計業務妨害・侮辱・名誉棄損などの刑法違反

・一方的な主張の繰り返し(長時間又は多数回の渡る)
 職務妨害行為(就業環境または業務推進阻害行為等) ・長時間にわたる担当者の拘束

・その場で解決できない事象への即時対応要求

・正当性のない担当者の交代要求

・虚偽の申し立て又は威圧的な申し立て

・就業時間後の担当者の拘束

・義務なき文書の提出要求(お詫びの書面を今すぐに書けという要求)

・大声を出す・暴れるなどの施設の平穏を害する言動

・同一・類似案件への執拗な対応(回答)要求や電話架電

・業務上必要な機器などを奪う・破壊する行為

・従業員の警告を無視する
 担当者の尊厳を傷つける行為(人格否定・意思決定権の侵害等) ・暴言・誹謗中傷・侮辱

・個人的な責任追及(賠償・補償要求)

・「ネットに書き込むぞ」と言ったり、「今の時代はネット情報に上がると大変だぞ」というなど、個人情報のさらしなどをちらつかせること

・無許可での撮影や録音

・土下座や人格・尊厳を傷つける行為の強要(セクハラ・性的自由の侵害を含む)

・担当者の意に沿わないSNSなどによる連絡・返信の要求

・職場・通勤経路・自宅での「待ち伏せ」や「付きまとい」をはじめとした恐怖を与える行為

・必要以上の連絡先・個人情報などの開示要求

・嫌がらせ行為

3.クレームとの差異(★カスハラは、普通の苦情・クレームと、どう違うの?)
(1)高度成長・バブル期の昭和後半頃には、「お客様は神様」とのチャッチ・フレーズに象徴されるように、商品を買ってお金を出してくれる顧客は、企業者にとっては唯一の利益提供者であり、企業者は顧客の要求には従うべきであるという考え方や、商売において顧客満足を利益・採算などよりも重視すべきであるという顧客満足度を追及する考え方などの「顧客第一主義」が流行した時期がありました。
 それは、近江商人が商売理念としてもっていた「三方良し」(買い手よし、売り手よし、世間よし)を元に、商売はまずは最初に買い手(顧客)のことを一番先に考えてあげよう(「お客様の喜びをまず生み出すことで社会に貢献しながら、我が社も潤う!」)という考え方であったにすぎません。
 そのような場合には、顧客からの「クレーム」(和製英語Claim=自身の被った損害を説明して、その損害に対して責任のある相手に、損害の補償を要求することを意味する)にも、企業の改善点への貴重なご意見と捉える風潮もありました。
 しかし、その後、そのような考え方を顧客側で「悪用」する例(客に刃向かうな。客の言うことは絶対に聞け。等)が増えてきました。
 そもそも、顧客第一主義は、顧客が、消費契約取引上のルールや常識を守る顧客であることを想定していたものですが、消費契約取引上のルールすら守れない顧客層が出現するようになりました。
(2)厚生労働省は2022年に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を作成しており、企業が従業員を守るために対応するべき課題の1つとしています。
 そこでは、カスタマーハラスメントの定義として「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・様態が社会通念上不相当なものであって、当該手段・様態により、労働者の就業関係が害されるもの」と定められています。
 このように定義上は、クレームとカスタマーハラスメントは、共通の場面ではありますが、社会通念上の妥当性・相当性の有無で区別される点で本質的には全く異なることになります。
① クレームは商品の向上・改善を目的とします。商品やサービスに対する『要求』や、『依頼』の形をとって伝えられる行為ですが、クレームは、商品やサービスをよりよいものにするために役立つ意見であり、正しく対処すれば顧客と企業の両方にメリットをもたらします。また、顧客の要求を受け入れることで解決できます。
② カスタマーハラスメントは、『嫌がらせ』を目的としています。どれも理不尽な嫌がらせや悪質ないじめ又は不当な要求行為になります。カスタマーハラスメントの場合には、顧客の要求を通せば通すほど次々と不当要求が続き、悪化していくので、初期の段階から拒否対応をするなどの適切な対処が求められることになります。

4.カスタマーハラスメントが生じる現代的背景(★なぜ、顧客の苦情が非常識になったの?)
(1)反社会的勢力と一般人のボーダレス化
社会的なルールを逸脱する犯罪的な不当要求を行うのは、従来は、暴力団や社会ゴロ集団などの反社会的勢力の暴力プロの連中が企業や商店に強硬な態様で行うことが多かったのですが、昨今は、反社会的勢力への取り締まりが強化され、そのような事案が少なくなった半面、一般人による過剰な態様や内容の不当要求が法的問題として多く生じるようになってきています。
 一般人と反社会的勢力の区分け(線引き)ができなくなってきており、カスタマーハラスメントが生じる原因の一つとなっております。(これを「ボーダレス化」と言います)。
(2)SNSの普及による言いたい放題の風潮
SNSの普及で、それまでは公の場で自分の主張を発表する手段がなかった個々人が、「ものを言う」手段(携帯ネットワーク)を手に入れたことから「ものを言う社会」になっており、自分の主張や感覚を前面に押し出すことに慣れてしまい、逆にそれを受け入れてもらえないときには怒りが大きくなる傾向が出ていることもカスタマーハラスメントが生じる原因の一つです。
(3)接客側と顧客側の意識のずれ
企業で働く側に居る場合には、お客様第一で職務を遂行していた者が、定年退職して顧客側に回った場合に、自分の経験した接客レベルの対応を求めてしまう又は、顧客に苦労して対応した経験を忘れてしまうという問題があるようです。カスタマーハラスメントの相談を多く担当しているある弁護士の見解として「学者、上場企業役員又は管理職、弁護士、医師等、社会的地位の高い業務に携わった人ほどカスタマーハラスメントをしやすい傾向がある。」「高学歴の高齢者の方がカスタマーハラスメントをしやすい傾向がある。」という論評もあります。周囲から敬意を払われることになれている人が、そうでない扱いを受けた際に不満を感じ、カスタマーハラスメントに発展する例が多いようです。

それでは、次回に、カスタマーハラスメントについて、どのような法的責任が生じるかについてご説明することにします。(次回に続く)

                          

以  上

「なるほど!」と思わせる裁判の判決(4)‐②

弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫


(僕の子じゃない事件)
事案の概要は、前回記載分を参照してください。
1.僕の子じゃない事件(前回)
2.子の認知の制度について(前回)

 それでは、裁判例(東京家庭裁判所令和5年3月23日判決)を読んでみましょう。
3.本件の裁判例(東京家庭裁判所令和5年3月23日判決―判例時報2620―48 最高裁確定)
 本件事例の裁判では、次のように判断されています。
(1) 被告(花子)は、ベトナム人A(マツ)が、ベトナム人B(タケ)との婚姻期間中に懐胎した子であるから、ベトナム法の規定により、被告(花子)は、ベトナム人B(タケ)の嫡出子であるところ、日本の民法下では、認知は現に父がある子を対象としてはすることができないと解されているから、原告(岩雄)が被告(花子)について行った胎児認知を有効なものと認めることはできない。
(2) また、日本の民法下で認知は、現に父がある子を対象としてはすることができないと解されている(最高裁平成26年1月14日判決寺田逸郎裁判官補充意見)のは、親子関係の公的な秩序として、父が重複することは許されるべきではないとする趣旨から出たものであると解される。
 本件の事実関係の下では、実際問題として、ベトナム人B(タケ)が被告(花子)の父として取り扱われる可能性は、今後とも乏しく、原告(岩雄)が被告(花子)についてした胎児認知を有効なものとしたとしても、被告(花子)の父の重複が顕在化する事態が現実に生ずるとは直ちには想像し難い。
 さらに、原告(岩雄)が被告(花子)の生物学上の父であることを争うことを明らかにしていないこと、原告(岩雄)は被告(花子)をベトナム人A(マツ)が、ベトナム人B(タケ)との婚姻期間中に懐胎した子であると認識しながら胎児認知の届出をしたと推認されること、原告(岩雄)自身が被告(花子)に対しその父として接してきていたこと、仮に胎児認知が無効であるとされた場合には、被告(花子)は日本国籍を喪失するなどして過酷な状況に置かれると想像されること、原告(岩雄)が被告(花子)に対して、胎児認知が無効であることの確認を求めるに至った動機は、ベトナム人A(マツ)が原告(岩雄)以外の男性との交際に及んだことに対する意趣返しにあったとも疑われることなどの事情を挙げて、原告(岩雄)の被告(花子)に対する胎児認知無効確認請求は、これを許すことには正義公平の観点から見て看過することのできない疑問が残るものであって、権利の濫用に当たり、許されない。

4.「なるほど!」の説明
(1) 親子関係を発生させる認知を無効にして親子関係を失くすには、条文上は「認知について反対の事実があることを理由とすれば」認められることになります。「認知についての反対の事実」とは、認知が親子関係(特に父子関係)を発生させる以上は、生物学上、自分の精子による子ではないとする事実(他の男性の精子による子供であるという事実)が典型的なものになります。
 この点、本件判例でも、「被告(花子)はベトナム人A(マツ)がベトナム人B(タケ)との婚姻期間中に懐胎した子であるから、ベトナム法の規定により、被告(花子)はベトナム人B(タケ)の嫡出子である」との認定をしていますから、本来は、「認知について反対の事実」があるわけですから、認知無効の結論になるはずです。
(2) しかしながら、法的な親子関係は、子供の養育・成長を伴う親子間の義務や権利を発生させるものであり、また、他人提供の精子を利用した生殖による親子関係は、婚姻している男女間に発生し、精子提供者との間には親子関係は発生しないとされていること(令和2年12月成立の「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」による)などから、必ずしも遺伝生物学的な親子関係だけで判断されるべきものではないとされています。
 そこに、最高裁判所平成26年1月14日判決にいう「認知を受けた子の保護の観点からみても、あえて認知者自身による無効の主張を一律に制限すべき理由に乏しく、具体的な事案に応じてその必要がある場合には、権利濫用の法理などによりこの主張を制限することも可能である」との認知無効の制限がなされる根拠があるわけです。
(3) かかる権利濫用による権利制限として、原告(岩雄)の認知無効の主張が認められなかった理由を整理すると次のようになります。
 ① ベトナム人B(タケ)はベトナムに帰国したままであり、被告(花子)の父として取り扱われる可能性は今後とも乏しく、被告(花子)の父親が重複する可能性はないこと。
 ② 原告(岩雄)は、被告(花子)をA(マツ)がB(タケ)との婚姻期間中に懐胎した子であると認識しながら胎児認知の届出をしたこと。
 ③ 原告(岩雄)が、被告(花子)の生物学上の父であることを争うことを明らかにしていないこと。
 ④ 従来から原告(岩雄)自身が、被告(花子)に対しその父として接してきていたこと。
 ⑤ 仮に、胎児認知が無効であるとされた場合には、被告(花子)は日本国籍を喪失するなどして、過酷な状況に置かれると想像されること。
 ⑥ 原告(岩雄)が被告(花子)に対して、胎児認知が無効であることの確認を求めるに至った動機は、ベトナム人A(マツ)が原告(岩雄)以外の男性との交際に及んだことに対する意趣返しにあったと推認されること。

 権利濫用法理は、権利者が違法又は不適切な意思で権利行使をする場合に適用されることが多いのですが、⑥の意趣返し(仕返しをして恨みを晴らすこと)の意図で認知無効の裁判を起こしたのではないかという点は、かなり影響があったのではないかと思います。
 また、本件の特殊事情として、被告(花子)は日本国籍を喪失するという不利益を子の保護の観点から回避してあげたということも考えてみると、「なるほど!」と思える判決だと思います。

                           

以  上


「なるほど!」と思わせる裁判の判決(4)‐①

弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫


1.(僕の子じゃない事件)
(1)ベトナム国籍を有する女性であるA(マツ)は、平成14年から日本に滞在していたところ、平成15年にベトナムにおいて、ベトナム国籍を有する男性であるB(タケ)と婚姻の登録をして、日本でB(タケ)との同居を開始したが、平成17年6月頃にB(タケ)とは別居した。その後、A(マツ)は、同年10月頃までに日本国籍を有する男性である原告(岩雄)との交際を開始し、同年12月頃に原告(岩雄)との同居を開始した。この当時、原告はC(梅子)と婚姻関係にあったが、C(梅子)とは別居していた。
(2)A(マツ)は、平成18年、被告(胎児の花子)を懐胎している旨の診断を受けた。A(マツ)とB(タケ)は同年7月にベトナムの裁判所において合意による離婚の承認を受け、その後、原告(岩雄)は被告(胎児の花子)についての胎児認知の届出をして、受理された。そして、A(マツ)は被告(花子)を出産し、被告(花子)は、戸籍上、原告(岩雄)とA(マツ)との間の長女とされ、日本国籍を有するものとされた。また、B(タケ)は、その数年後に日本から出国した。
(3)被告(花子)は、1歳半になるまでベトナムに居住するA(マツ)の母に預けられていたことがあったほかは、日本で原告(岩雄)及びA(マツ)と同居していた。そうしたところ、A(マツ)は、令和2年6月頃に原告(岩雄)以外の男性との交際を開始し、同年8月頃に被告(花子)とともに原告(岩雄)と別居した。そのことに、原告(岩雄)は憤慨した。
(4)原告(岩雄)は、令和3年5月に被告を相手方とする認知無効確認調停を申し立てたが、調停が成立しないものとして事件が終了したことから、同年7月に本件訴えを提起した。
 原告(岩雄)は、「令和3年2月頃になってA(マツ)とB(タケ)が平成18年7月に離婚していたことを知ったが、懐妊時にはA(マツ)は、B(タケ)と婚姻していたから、被告(花子)はB(タケ)の嫡出子であり、そもそも被告(花子)は“僕の子じゃない!”ということで、原告(岩雄)が被告(胎児の花子)についてした胎児認知は無効である」と主張した。

 さて、一度、自分の子供であると男性が認知した場合に、その子供は自分の子じゃないと主張して、親子関係を失くすことはできるのでしょうか?

2.子の認知の制度について
(1)子の認知とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子供(いわゆる非嫡出子)を、父(又は母)が、血縁上自分の子であると認めることです。実際には、父親が血縁上自分の子と認める場合が多いです。母親の場合は、裁判例で、原則として子供が産まれた時点で法的な親子関係が生じることになっています。(このことを、「母親であることは事実であるが、父親であることは信じることに尽きる」と表現する人もいます。)
 また、認知の方法として、「俺の子だ。」と言っただけでは足りず、役所に認知届を提出する方法、遺言によって子を認知する方法(任意認知といいます)があります。
 しかし、父親が任意に認知してくれない場合、母親は、家庭裁判所に認知調停を申し立てることができます。この調停において、当事者双方が、子が父親の子であることについて合意し、家庭裁判所が必要な調査をした上で、その合意が正当であると認められれば、合意に相当する審判が出されます。更に、父親が、調停中から認知に応じておらず、審判に対しても異議を申し立てた場合には、訴訟によって認知を求めることが可能です(強制認知といいます)。
(2)認知の効果
① 任意認知でも強制認知でも認知がなされると、子供の戸籍に父の名前が記載され、法的な父子関係があることになり、子が未成熟子であれば、母親は父親に対し、養育費の支払を求めることができます。
② また、外国籍の母親から生まれた場合には、父又は母が日本国籍である場合には、国籍法第2条で、子供は日本国籍を取得できますが、父親がわからず、外国籍の母親だけの場合には、日本国籍は取得できませんが、日本国籍を有する父親が認知してその子の父親となった場合には、国籍法第2条の定める「父又は母が日本国籍である場合」に該当しますので、子供は日本国籍を有することにもなります。
(3)認知の無効について
① 子の認知については、実際には、自分の子供でない場合であっても、円満な家庭生活を送る目的で、ⅰ)自分の子供だと信じて認知する場合や、あるいは、ⅱ)自分の子供ではないことを分かりつつ、円滑な生活を送ることを優先して、認知する場合などが多くあります。このような場合、逆に、妻と離婚する場合や、内縁を解消する場合に、子供との関係も解消するべく、認知の無効を求める手続きが必要になります。子供との父子関係が継続すると、家庭関係の消滅後の新たな生活を始めようとしても、その後に、養育費の支払い責任や、相続の問題が生じてしまうからです。そこで、民法第786条は、認知の無効の訴えという制度を用意しています。
② 民法第786条(認知の無効の訴え)は次のように定めています。
 「次の各号に掲げる者は、それぞれ当該各号に定める時(第七百八十三条第一項の規定による認知がされた場合にあっては、子の出生の時)から七年以内に限り、認知について反対の事実があることを理由として、認知の無効の訴えを提起することができる。ただし、第三号に掲げる者について、その認知の無効の主張が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。
  一 子又はその法定代理人 子又はその法定代理人が認知を知った時
  二 認知をした者 認知の時
  三 子の母 子の母が認知を知った時                                                 」
 この規定によって、認知をした男性は、「反対の事実があることを理由として」認知の無効の訴えを提起することで、認知が無効であることを判決で確定させ、父子関係が存在しなかったことを確定させられます。
③ ところで、自分の子供ではないことがわかっていながら認知をした場合に、後から認知の無効を主張することは許されるのでしょうか?本件の原告(岩雄)の請求の最も問題とされる点です。
 この点については、次のような最高裁判例(最高裁判所平成26年1月14日判決―民集68-1-1、判例時報2226-18)があります。
 「血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は無効というべきであるところ、認知者が認知をするに至る事情は様々であり、自らの意思で認知したことを重視して認知者自身による無効の主張を一切許さないと解することは相当でない。また、血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知については、利害関係人による無効の主張が認められる以上(民法第786条)、認知を受けた子の保護の観点からみても、あえて認知者自身による無効の主張を一律に制限すべき理由に乏しく、具体的な事案に応じてその必要がある場合には、権利濫用の法理などによりこの主張を制限することも可能である。」
 結局、「自らの意思で認知した」という理由だけで認知無効の主張を許さないということはできないが、認知を受けた子の保護を図る必要があるなどのその他の事情により認知無効の主張を許さないとすることもあるという折衷的な立場です。
 どうでしょうか?
 次回は、東京家庭裁判所令和5年3月23日判決を紹介して解説をしていきたいと思います。

                           

以  上