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木の枝と木の根っこ
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
地方公共団体からの法律相談を担当をしていますと、道路をめぐる責任問題の相談が多いのですが、今回は、その相談の一例を簡単な事例形式にして、法律的な解釈をしてみましょう。
- (相談内容)
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A市の市道の脇の私有地(Bさん所有)から、大きな樹木の枝が市道のほうへ入り込んだ状態になっていて、自動車を運転していたCさんのトラック(自動車)のフロントミラーがその枝に当たって、ミラーが壊れてしまいました。Cさんは誰に損害(ミラーの修理代金)を請求できるでしょうか?(特にA市に対して賠償請求できるのでしょうか?)
- <回答>
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1.まず、樹木は植物として生きていますが、人間と違って権利や責任の主体にはなれません。「物」としての樹木等を所有する者や管理責任のある者が、その責任を負うことになります。(*「者」と「物」の区別・・・「者」は権利責任の主体であり「物」は権利責任の客体にすぎない)
2.樹木の所有者Bさんには樹木の管理ミスとしての責任があるでしょうか?
(1) 樹木の所有権という権利は、信義に即して行使し権利の濫用はできないとなっていますし(民法1条、206条)、他方、市道という土地を所有管理するA市の市道の権利範囲は「土地の所有権は法令の範囲においてその土地の上下に及ぶ」(民法207条)とありますので、「Bさんの樹木の枝が市道ほうへ入りこんだ状態」は他人の所有権を侵害した状態(A市の道路の上を侵害している)であり、道路通行の障害になっている以上はBさんの樹木の管理は十分ではないということになります。その結果、第三者である道路通行人や通行車両に怪我や損傷を与えた場合には、不法行為(民法709条)となりますので、Bさんはその損害を賠償しなければなりません。
(2) しかし、Bさんが一方的に悪いのでしょうか?トラックを運転していたCさんも前方注視義務があり樹木の枝が道路に出てきているのであれば、それを避けて運転できたでしょうし、枝との衝突を避ける手段はいくらでも取れたかもしれません。そこで、運転手Cさんにもミス(過失)があるような場合には、過失相殺(相互の過失割合で損害額を減額していく方法:民法722条・418条)がなされ、樹木の所有者Bさんはミラー修理代金の全額ではなく、一部だけを支払うことで足りることになります。
3.問題は、トラックを運転していたCさんが、A市に対して損害賠償請求ができるかという点です。地方公共団体に対する不法行為の損害賠償請求は、国家賠償法に基づいて請求する仕組みになっています。国家賠償法2条1項で「道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体はこれを賠償する責に任ずる」と定めてあります。問題は、「Bさんの樹木の枝が市道のほうへ入りこんだ状態」が「道路の管理瑕疵」になるかどうかです。参考に、樹木の枝でなく「Bさんの樹木の根っこが市道のほうへ入りこんで道路面を危険にして いる状態」との比較をして考えてみましょう。
(1) 民法233条に面白い条文があります。「1.隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。2.隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。」と定められています。簡単に言うと「人の土地に勝手に入り込んできた竹の子は根っこだから勝手に切っていいけど、桜の木の枝が入り込んでも勝手に切ってはいけないよ。お隣さんに切りなさいと請求できるだけだよ。」って感じの条文になります。 木の枝と木の根っことで違う定めをしている理由は、木の枝なら切らないで曲げるなどの方法で修正できる場合もあるし、侵害の態様が直接的でないし、他方、木の根っこの場合には、土地の表面や地中を直接侵害しているので侵害の態様が直接的なので勝手に切らせてもらってもいいという趣旨でしょう。
(2) そうすると、問題に戻って、Bさんの樹木の根っこがA市道に入り込んでいる場合には、道路表面の変化も生じており、A市で勝手に切断して安全な道路にして管理することができるのですから、それを放置して自動車事故や自動車損傷が発生した場合には「道路の管理瑕疵」ということで賠償責任を負わされてもやむを得ないと思われます。 しかし、本問のように樹木の枝の場合はどうでしょう。A市はその枝を勝手に切ることはできないのです。樹木所有者のBさんに「危ないので枝を切ってください。」と要求できるだけなのですから、道路を自分の行動だけで安全な状態に戻すことはできません。私としては、このような場合には「道路の管理に瑕疵があった」とは即断できないのではないかと思います。
(3) 但し、交通利用者からA市に対して、「危険な枝が出ている。」等との連絡が入っていたのに、樹木所有者のBさんに「切除要請しないままで」漫然と放置していた(道路上の注意標識の設置など可能な防止措置などもしていなかった)場合には、道路管理ミス=「道路管理の瑕疵」となる場合もあると考えられます。そのような事例で公共団体の道路管理のミスを認定して、A市の賠償責任を認めた判例もあります(平成15年2月26日千葉地裁控訴審判決参照-賠償責任は認めています。これは、道路に木の枝が張り出していることを関係者が市に通報し、その改善を何度も要請し、市が伐採請求をする時間的余裕が十分にあったにもかかわらず、伐採請求すらしていない事案のようですし、この判決でも、実際には通行人にも過失があり、過失割合は4割として全額の賠償は認めていません)。
以上
高齢者植木職人の落下事故と法的責任
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
今回は、公務員関係の法律から少し離れて、法的責任の判断の仕方について、参考になる具体例を通じて気楽にお話ししてみたいと思います。ある方から、次のような質問を受けました。
- (質問)
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先日、NHKの土曜日・お昼の法律相談番組を見て、不思議に思ったことがありました。相談内容は「元プロの植木職人で、依頼人に頼まれた70歳の人が松の剪定中に木から落下して大怪我。依頼人に責任はあるのか?」っていうことで、番組の弁護士さんの回答は、「依頼人に責任は無い。個人事業主のような元プロの職人さんだから、個人責任になる。」っていう回答でした。私はいくら元プロでも70歳だから、少し危険なことをさせるのに、そのことを思わないで頼んだ人にも、多少の責任はあるって思ったのですが、なぜ依頼人は責任を負わなくていいんでしょう?特に、自動車の運転者責任と比較しますと、もし他人を善意で車に乗せて、同乗者に人身事故を起こした場合でも、これは善意と責任は別物っていうことで、運転手さんに責任が生じるのですから、そのような場合とはどう違うのかなあと思っています。この二つの例で、法律上の責任の度合いの違いが、なぜ違うのか教えてくださ~~い。
- <回答>
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1.最初に、法的形式へのあてはめをしてみますと、植木職人事案は、「請負契約関係」、自動車同乗者事案は「契約関係なし」か「自動車無償同乗契約」かのいずれかになります。契約が異なるわけですが、問題は、それらの契約内容が相手方の安全に配慮しなければならない要素を有する契約か否かという違いを検討してみる必要があります。
まず、請負契約は、相手の労働を支配せず、相手の自主的な労働に基づき完成した仕事の結果に対して報酬(剪定代金)を払うという契約であり、依頼人は、植木職人の行動や労働場面を支配していません。このことから、植木職人は、依頼者に拘束されない状態での自由な状態で仕事できるので、別人の依頼者に植木職人の安全配慮義務を認めるのは難しいということになります。
他方、自動車無償同乗契約は、自己の車に乗せて、自己の運転で本来危険性を内包する高速走行の運転で無償で移動するという契約か、又は、人が人を自己の自動車運転の支配内においているという事実関係でありますので、同乗者の行動・身体の自由を事実上拘束し支配している関係にあると言えます。このことから、運転者は、同乗者を支配している以上は、同乗者の安全を支配しているわけですからその安全に配慮しなければならないということになります。2.次に、負傷の原因については、植木職人事案は、「職人自身のミスによる落下」、自動車同乗事案は「同乗者のミスはなく、運転者のミスによる事故」ということであり、負傷の原因が自分にあるか、相手方にあるかで根本的に違います。(但し、自動車同乗事案でも、例えば、こちらの運転ミスはなく、衝突したもう一台の車の一方的ミスが事故の原因であった場合には、こちらの運転者は同乗者の負傷に責任は負いません。もう一台の車の運転者が負傷の責任を負うからです。)
このように、法的責任は、損害の発生(負傷)に直接関係する行為者が責任を負うという構成でできています。
なお、植木職人事案の請負契約の場合でも、依頼者が壊れかけた梯子を貸与してそれが原因で落下したり、通常あり得ない危険な作業を職人に指示してやらせていた場合などのように、依頼者に植木職人の業務の危険性を発生させたような原因がある場合には、その負傷の直接の原因を作っているとも評価できますので、依頼者が責任を負う場合もありえます(民法636条参照)。その点、高齢者に頼んだということ自体に責任はないのか?という疑問は基本的には正しい法的感覚だと思いますが、反面、高齢者に頼んではいけないというような社会的基準もないだろうと思います。
最後に、参考として述べておきますが、植木職人事案の場合に、請負契約ではなく、労働雇用契約である場合もあり得ます。例えば、大邸宅で庭木の手入れ管理する者として植木職人技術を有する者を月給を支払う形で雇い入れた場合です。この場合には、植木職人は自分の判断で仕事をするというより、使用者(ご主人)の指揮命令に従って植木の手入れ管理をしていくことになり、その労働自体を時間的にも場所的にも拘束され支配されている関係になりますので、使用者(ご主人)は、植木職人(労働者)への安全配慮義務はあるということになります。3.結論
以上の二点の違いから、植木職人事案と自動車同乗者事案では契約の性質(植木職人はプロとして自分の判断・自分の危険管理の下で仕事しているが、好意同乗者は、自分では危険管理はできず運転者の危険管理の下にある等)から違いがあるので、依頼者等の責任の有無について結論が異なるようなことになるわけです。
以上
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